2015年04月26日
こうひいや 竹嶋@佐賀市白山一丁目
4月3日の朝。
妙に早く起きてしまった。まだ新聞も来ていない時間。
ふと思い立って土鍋で米を炊いて朝飯を食べることにした。おかずは生卵と納豆と冷凍網の一番摘み佐賀海苔。味噌汁がインスタントなのは心持的にしっくりこないのだが、まぁ妥協の範囲内ではある。
月並みだが日本人で良かったと思う朝食を食べている刹那は、小春日和のぬくもりを喜ぶスカラベのような悦楽の時間である。
大きめの茶碗で二杯の米粒を胃に詰め込んだ後に煙草を喫っていると、唐突に旨いコーヒーを飲みたくなった。
色々と思案した結果、久々にあのお店のコーヒーを飲みに行くことを決断した。「こうひいや 竹嶋」である。
三十数年前から佐賀の地で直火式焙煎のコーヒーを販売しているお店である。あくまでも試飲という位置づけではあるが喫茶コーナーも設けられているお店だ。
佐賀市本庄町の南部バイパス沿いで創業され11年前に白山一丁目に移転され、現在は焙煎豆とミルした粉を販売されている。
春の嵐と呼ぶにふさわしい、強い風と横なぐりの雨の中をお店を目指した。開店時間である9時の5分前にお店に到着したのだが、既にお店は開店していた。
店内には既に老夫婦のカップルがテーブル席に座っていた。男性の方は品のいい細かいストライプのシャツを着ていた。カラーの形状から推測するに、ブルックスブラザーズのポロカラーシャツのようである。
「まりやちゃん、今日マスターは?」
ポロカラーシャツの男性が、厨房内にいる店主ご夫婦の奥様の方に話しかけた。
「ちょっと買い出しに行っているんですよ。お待たせしましてすみません」
まりやちゃんは、恐縮して返事をした。
急がせたらいけないかなと思い、まりやちゃんがコーヒーを老夫婦のテーブルに運び終えてから、自分のオーダーを考え出した。
「モカ・マタリ2、コローンビア3、ブラジール3、グワテマラ2というレシピのブレンドも十分に美味しいのだが、今日はちょっと贅沢してみようか・・・。」
と、心のなかでひとりごちていたら、大学生風ファッションの男子が入店してきた。
その男子が二人掛けのテーブル席に座ろうとしたときに、付けていたイヤホーンがどうした拍子かスマホのジャックから抜けてしまい、店内に大きな音が流れた。
その音は談志の「芝浜」だった。その外見からして坂本真綾あたりを聞いていそうな印象を受けるのに、かなり意外である。
ひょっとしたら、長瀬智也と岡田准一W主演し、宮藤官九郎が落語を題材に脚本を書いたドラマ「タイガー&ドラゴン」を見ていた影響かもしれないとも思った。
オーダーは「ハイマウンテン・ミックス」にした。
ハイマウンテン自体は、酸味・苦みが程よく柔らかい甘味を感じさせてくれるミコーヒー豆である。その特徴をMIXという形式でどう伝えられるのか、あるいはどう増幅させられるのか興味が湧いたからである。
「ハイマウンテン・ミックス」は想像以上に美味しかった。
まるで、カヤのような爽やかな後悔を後味として残す。その何気ない妖しさにも魅せられて、思わずその豆のミル後の粉を300グラムオーダーしてしまった。かなり高額になるが、その価値は十二分にあるように思える。
「ハイマウンテン・ミックス」の残滓をぶち壊すようなPAの大音量が突然、となりの敷地である龍造寺八幡宮からのものである。
どうやら県議会議員選挙に立候補した、とある候補者が出陣式を行っているらしい。
何度も繰り返される候補者の氏名を確認し、ポロカラーシャツの男性が、誰に語りかけることなくしゃべりだした。
「あっ、この候補者知ってるわ。あの『れれれ』っていうラーメン屋をやっているところの社長だろ!?それと北部バイパスには『三九』って屋号をパクッたラーメン屋を平気で営業するような、儲け主義で地元の文化を崩壊させる、いけすかない企業だ」
今まで漏れ聞こえてきていた夫婦の会話とは違い、その口調には凛とした主張が感じられた。
「おまけに、あの木下元市長とか元県議会議長とかを陣営に取り込んで、他人のふんどしで勝とうなんて思っている小物だよ。俺がもう少し若かったら、対立候補として立候補しても良かったんだけどな」
ポロカラーシャツの男性はそう言った後に大きな声で笑った。つれあいの女性は「もう、うんざりですよ」と言いながらも、承諾しているような小さな笑顔で応えていた。
その後しばらく交わされた二人の会話からすると、どうやらその男性は、昔はどこかで市会議員を務めたことがあるようだった。県会議員への転出を勧められた時期もあったようなのだが、商売の都合で断念したという顛末らしい。
隣のPAからは、いよいよ候補者が登壇する旨のアナウンスが流れてきた。
どうも、そのスピーチを聞いてしまうと憂鬱な週末になりそうだったので、カップの底の数滴の「ハイマウンテン・ミックス」を慌てて啜り席を立った。
まりやちゃんに釣り銭がないように代金ちょうどの2280円を渡し、300グラムの至福を受け取った。
店の出口に向けて歩を進め始めたとき、ポロカラーシャツの男性がぽつりとつぶやいた。
「よそう。選挙に出て、また夢を追いかけるのは」
こうひいや 竹嶋 店舗データ
■住所
佐賀市白山一丁目3-31
■電話
0952-29-6494
■営業時間
9:00~19:00
■定休日
毎週日曜日
■駐車場
店舗前数台
■UD
入口ドア前の屋外スペースに履物を置いて入る稀有なスタイルうえに、車椅子での入店は少々難易度が高いかも。店内の手前が自家焙煎コーヒーの販売スペースで、奥がカウンター席とテーブル席からなる喫茶スペースとなっている。店内はゆったりとしたスペース配置で床はフラット。喫茶スペースはあくまでも「試飲コーナー」という位置づけなのでそのつもりで。
Posted by 今仁 at 14:56│Comments(2)
│グルメ
この記事へのコメント
その候補だった人、ワサビの2~3月号に登場してましたね。
今考えると、選挙運動の一環だったのかも?
しかし新聞の候補者一覧では、無所属立候補でもないのに何故か一人だけ所属政党の記載なし。
こりゃコウモリさんかな~落ちそうだな~と思っていたら案の定でした。
今考えると、選挙運動の一環だったのかも?
しかし新聞の候補者一覧では、無所属立候補でもないのに何故か一人だけ所属政党の記載なし。
こりゃコウモリさんかな~落ちそうだな~と思っていたら案の定でした。
Posted by こくりゅう at 2015年07月04日 01:56
こくりゅうさん、こんにちは。
このエントリーは、あくまでもフィクションです、はいww
このエントリーは、あくまでもフィクションです、はいww
Posted by 今仁 at 2015年07月04日 11:35
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